虚馬アーカイブス

私「窓の外」が「江戸川番外地」というブログに書いた文章をブログに移行したものです。

管理人:「窓の外」
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「インファナル・アフェア」(アンドリュー・ラウ&アラン・マック) 無間道

 義理と人情に挟まれ、懊悩し葛藤する男のドラマ。それこそがノワール。この映画はそのかつて隆盛を誇った香港ノワール映画を復活させるべく、アジアの才能が集結し、その才能の限りを尽くした、贅を凝らした男の映画。監督に、キョンシーからノワール、CGを駆使したアクションまで幅広い経験を持つベテラン・アンドリュー・ラウと、新進監督アラン・マックが共同で担当。視覚効果にアジアを股に掛けるオーストラリア人撮影監督・クリストファー・ドイル。編集の一人にタイ出身で監督作品「the EYE」で見事な編集を見せたダニー・パンを配し、主演は、外へと流出してしまう香港映画人の中で、香港映画界を支え続けるアンディ・ラウトニー・レオンが夢の共演を果たし、脇を傑作「ザ・ミッション」のアンソニー・ウォンが固めるなど、万全の布陣。

 そんな映画がつまらないわけなどない。一流スタッフとキャストが揃ったところで面白くなるという保証が有るわけではないが、この映画は違う。話としてはよくある裏切りと情念のノワールだが、ヒリヒリとした緊張感を持続させる演出。テンションの緩急を自在に操る巧みな編集。マフィア出身の警官とマフィアに潜入した警察官、その「陰」と「陽」の感覚が行きつ戻りつ絡み合い、その立場に苦しむ二人の男を見事に対比させる脚本も素晴らしい。まさに傑作になるために生まれてきた映画だ。



 ・・・・しかし、ここまで褒めあげておいて何故、★4つなのか。それは俺の中でなにか、この映画を「傑作!」と言い切れない何かがあるからだ。期待が過ぎたのかもしれないが、大きな不満が一つある。この純然たるノワールに異物が投げ込まれているせいだ。それは「女」。

 この男臭いノワールに華を添えるべく、主役に関わる女性達(ケリー・チャン、エルヴァ・シャオ、サミーチェン)がそれだ。ハッキリ言う。
邪魔




 別に女がスクリーンに映る事がダメと言ってるんじゃない。むしろ大歓迎だ。だが、このドラマにおいて女性が彼らに関わるとすれば、彼女たちには一つの義務がある。
彼女たちは身の危険にさらされなければならない
。そうでなければ、このノワールにしゃしゃり出てくる余地はない。


 ところが、この映画では、この主人公2人の「無間地獄」からまるで切り離されたシャバで、主人公達と戯れている。このシーンが、インサートされるたびに、これまで積み上げてきた緊張感が「リセット」されてしまう。映画のリズムが中断される。この素晴らしい旋律のような出来が良い映画故に、この不協和音はかなり大きく響く。

 おそらく、彼女たちの存在が香港において興行記録をうち立てる呼び水になったであろうことは間違いないし、女性観客を呼び込むための一つの視点として、彼女たちを配したのかもしれないが、この映画がまさしく歴史的傑作となるには、彼女たちの存在をもう少し物語に密接に絡ませて欲しかった。



 だが、この映画が素晴らしい映画である事はまた疑いの余地がない。興行記録をうち立てたのが 踊る大捜査線」だったりする我々日本に比べれば、この映画が興行記録を塗り替えた香港は遙かに作品的にも観客の質も恵まれていると言えようか。