虚馬アーカイブス

私「窓の外」が「江戸川番外地」というブログに書いた文章をブログに移行したものです。

管理人:「窓の外」
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「インファナル・アフェアIII/終極無間」(アンドリュー・ラウ/アラン・マック) Infernal Affairs III/無間道III

 「俺を撃てるのか。」と『ラウ・キンミン』は尋ねた。



 微笑みながら、『俺』は答えた。






「あいにく俺は警官だ。」





 「無間道」こと「インファナル・アフェア」シリーズ完結編と銘打たれた本作。これによって、物語は一つの結末を迎える。このシリーズ、三部作ということになっているけれども、シリーズ立ち上げ時にシナリオ化が進んでいたのは「インファナル・アフェア(以下「I」)」と本作である「終極無間(以下「III」)」。もともと2部作として構想され、「I」撮影時に「無間序曲(以下「II」)」の構想が立ち上がった経緯を考えれば、きちんとシリーズとリンクするとは言え、「II」は前日譚でありながらもあくまで「番外編」であると捉えるべきだろう。よって、本サイトではあくまでも、「I」を前編、「III」を後篇と位置づけて、つまり「III」を「I」の正式な続編として、この文章を書き進めて行きたい。



 よって、この「III」は「I」の鑑賞が必須であること、そしてこの文章に「I」のネタバレがあることを、申し述べておきます。



 さて。

 「I」の中で描かれるのは、善と悪の狭間で苦悩している2人の男である。潜入であるが故に互いを探索する指令を受けた二人は、その境遇ゆえに互いを求め、その立場ゆえに敵対する。心の螺旋を行く二人。やがてマフィアと警察の均衡は崩れ、ヤンの上司ウォンは死に、ラウの親分のサムもラウの凶弾に倒れる。そして、ラウとヤンは邂逅する。つかの間、意気投合する二人。だが、それはラウの偽りあってのものである。ラウの正体を知ったヤンによってその関係は瓦解し、クライマックスで、二人はビルの屋上で対峙する。悪でありながら善。善でありながら悪。まるで鏡像に向かいあうかのように立つ二人。そして、物語はひとつの無情な結末を迎える。





 その二人が対峙した「I」のクライマックスを起点として、「終極無間」では並行して二つの物語が描かれる。その事件から10ヶ月後のラウと、半年前のヤンである。

 「俺は自分の道は自分で選ぶ。決めたよ。」

 警察組織内の事後処理も済み、マフィアとしてではなく、警官として生きようとしていたラウであったが、彼には「不安の種」があった。かつての仲間に、潜入マフィアがあと2人いると聞かされたからだ。彼は、自分が警官であるために「自分」と同じ「潜入」を殺さねばならない。

 そして、彼はついに手段を選ばないやり手刑事のヨンに不審なものを感じ、彼を監視しはじめる。本土のマフィアを名乗りサムとも交流があったシェンと接触した事実を知り、確信を深めるラウ。しかし、消したはずの「自分」を見つけだそうとする倒錯した行為が、彼の精神を徐々に蝕み始める。

 彼の心は、やがてヤンの存在を求め始める。善人になるために、自らに染みついた血のにおいを消すタダひとつの方法。それが…ヤンの存在にあるからだ。(「I」から)半年前のヤンという「虚」の人生を追うことで、現在のラウという「現実」の人生が虚実を混濁し始めていく。



 「善人でありたい。」。そう互いに願い、そして生きてきた二人。しかし、彼とラウには決定的に違うものがあった。『あいにく彼は警官』だったのだ。善人であるために、ラウはヤンを求め続け、やがてヤンの人生を「手に入れる」が、それこそが「現実」の彼を破滅へと導く。

 クライマックスで、彼はその現実を知り、絶望の涙を流す。そして、彼が採った方法は…あまりにも哀しい方法だった。



 ラスト。車いすに座り、モールス信号を打つラウは、すでに無間の闇に閉ざされてしまったのだ。伸びた蜘蛛の糸を切り離してしまった健陀多のように。戦慄すべきは、それが永久ループの連環の輪であることである。

 多少のほころびはあるのはわかるし、「I」のテンションから転調している違和感もわかるのだけれど、それでもこのシリーズは「無間地獄」への道のりを貫き通した。その志を、俺は支持したい。