虚馬アーカイブス

私「窓の外」が「江戸川番外地」というブログに書いた文章をブログに移行したものです。

管理人:「窓の外」
ホームページ「江戸川番外地」で過去に書いたテキストを移行したブログです。

「インファナル・アフェア/無間序曲」(アンドリュー・ラウ/アラン・マック) 無間道II/Infernal Affairs II

 無間地獄に火を投げ入れたのは、誰だったのか。

 香港映画の総力を挙げて取り組み、そして見事成果を挙げた「インファナル・アフェア」。その第2弾は第一章から遡ること11年前。中国返還以前の香港。全ての因縁の始まりを告げる、前日譚である。
 狡知に長けてはいるが気のいいヤクザ、正義感にあふれているが手段を選ばない非情な刑事、一人の女性を愛するが故に善と悪の狭間で揺れ動く若者、呪われた家を捨てたいが故に誰よりも警官であることを望む青年。
 何故彼らは無間地獄へと足を踏み入れるに至ったか。

 第1章ではうかがい知ることができなかった意外な因縁が絡み合い、地獄の風景は違う貌を覗かせる。

 この映画が凄いのは完成するまでの過程にある。
 「私たちが当初から考えていたのは第1章と第3章『終極無間』だけで、両方の脚本を同時に執筆していました。第2章『無間序曲』の企画は、第1章の撮影中に生まれたのです。(中略)ピーター・ラム(メディアアジア・グループ会長)が、過去にさかのぼってはどうかと提案してきたのです。」(アラン・マック/プログラムのプロダクション・ノート掲載の発言より抜粋)
 つまり元々2部作で完成させるはずだったシリーズに急遽組み込まれたのがこの「無間序曲」なのである。

 だから、3年かけてじっくり作ってきた第1章の脚本とは違い、粗や不備は多々ある。だが、第一章の成功によりノリにノってるスタッフやキャストたちの熱気が、この作品のフィルムに宿っている。
 「I」の公開から半年もかけずに脚本を書き上げ、そしてわずか2ヶ月で撮影してしまう荒技にも関わらず、映画はこれほどまでに高いポテンシャルを維持している。まるで、週刊連載してる漫画家が、予想外の人気に急遽回想話を入れたら、それが物語をさらに深めた連載をリアルタイムで目の当たりにしてしまったかのようだ。
 なにより俺がこの映画が凄いと思うのは、単なる過去話ではなく、新たな因縁を描くことで「I」を更なる深化へ導こうとするその志だ。俺は非常に計算された完成度を有する第1章よりも、粗はあろうとも一気に作り上げてなお、これほどの完成度の作品に「なってしまった」「II」にこそ、このシリーズの凄さがあると思う。

 物語は、家族思いでありながら、冷徹かつ知略に溢れた若き二代目ゴッドファーザー・ハウ(フランシス・ン)の興亡を軸として、彼と敵対する警察との争いの渦中へと巻き込まれていく男女の運命を描き出す。
 前作のシンプルな構造の物語を、見事な演出と編集による緩急で緊密なテンションを持続させた前作とは違い、複雑な人物相関によるそれぞれのドラマをひとつひとつじっくり描くことで因縁を浮かび上がらせ、そして彼らを一本の幹へと飲み込んでいく。
 なんと言っても前作になくて本作にあるのは、「運命を変える女性」である。男を愛するがゆえにまわりの男を翻弄し、道を踏み外していく女。そんな業を背負った女・マリーを香港のトップ女優、カリーナ・ラウがさすがの存在感で演じ、
 そして、エリック・ツァンアンソニー・ウォンの意外な関係は、第1章に更なる悲哀を生む。

 あの香港返還の花火が、まるで地獄の開幕を告げる狼煙のようにも、シリーズの成功への祝砲にも映る、熱気を孕んだシリーズ作として素晴らしい。