虚馬アーカイブス

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「劇場版 NARUTO/大活劇!雪姫忍法帖だってばよ!!」(岡村天斎)他一本

 いやいやいや。決して侮っていたわけではない。なんせ、俺が大友克洋関係の劇場用アニメで一番好きな「MEMORIES」の一編「最臭兵器」において、見事に軽やかなコメディ演出を披露した監督が、当の岡村天斎監督であることを知っていたのではあるが、しかしジャンプ漫画の映画化である。ここまで面白い作品になってると誰が想像するだろうか。(ちなみに原作はジャンプで目を通した程度。テレビアニメ版は未見。)
 映画ファン必見のシリーズになる萌芽を感じる。渾身の劇場用第一作。

 まず、原作およびテレビシリーズを知らない方へ、基礎知識。
●物語世界:5つの大国(火の国・水の国・雷の国・風の国・土の国)で成り立っていて、国の軍事力を支える力として、それぞれが忍の里を有している。忍びの里には「木ノ葉隠れの里」・「霧隠れの里」・「雲隠れの里」・「砂隠れの里」・「岩隠れの里」などがある。国と里は対等の関係であり、強い忍者達がそれぞれの国の独立と安全を守っている、という設定。忍者には、上忍、中忍、下忍と身分が分かれており、ナルト、サスケ、さくらたち3人は「木の葉隠れの里」の<下忍>、彼の上司であるカカシ先生が<上忍>である。
●忍術の仕組み:忍術 にはチャクラという力が必要。チャクラとは忍が「術」を使うのに必要とするエネルギーのこと。人間の身体を構成する膨大な数の細胞一つ一つから取り出す「身体エネルギー」と、修行や経験によって蓄積した「精神エネルギー」の二種類から成り、この二つのエネルギーを練り上げ(これを「チャクラを練る」という)、術者の意思である「印を結ぶ」というプロセスを経て、忍者は「術」を発動することが出来る。(ナルトの分身の術が、「分身にみせている」のではなく本当に「分身」しているのはその力による)
 ま、以上の2点を抑えれば大丈夫でしょう。後は現代の利器が色々登場するのはファンタジーなので考証は無用、ということにしておいてください。

 映画内映画「雪姫の大冒険」シリーズをナルトたちが見ているところから、映画は始まる。席に座らずに天井から鑑賞していたナルトたちがタダ見していると勘違いした劇場スタッフと口論となり、客が怒ってナルトたちに物を投げつける大騒ぎに。スクリーンの「雪姫の大冒険」の前を、客の怒号と物が飛び交うところをスクリーンに映す、というなかなか味なカットで幕を開けるのだ。つまり、「ガキども、映画の最中は騒ぐんじゃねえ」と暗に釘をさしているのだ。…多分。
 そして、その映画内映画こそナルトたちの任務内容にリンクしている、という趣向。映画好きにとっても実に引き込まれる見事な語り口だ。彼らの任務は「雪姫の大冒険」のヒロイン・雪姫を演じる人気女優・雪絵の護衛と見張り。ワガママですぐに脱走する。そんな彼女を見張っておいて欲しい、という。だが、彼女にはある重大な秘密が…というのが、大枠の話。
 話としては「あきらめなければ、きっと道は開ける」というメッセージともども実にベタではあるが、物語を語る要素としてナルトたちの力をさりげなく見せつつ、アクションと演出できちんとストーリーを展開させる手腕は劇場用長編初挑戦とは思えぬ、熟成されたのものだ。木の葉のナルト、サスケ、さくらのプロとしての姿勢もきっちりと描けているし、なによりカカシ先生のしたたかな戦いぶりは、格の違いを見せつけるには十分だ。雪姫のキャラクターも、厭世的な性格と女優としての顔を使い分ける描写をきちんと入れることによって、説得力があるキャラになったと思う。
 忍術による攻防も実に多彩でテンポが良く、印を踏むアクションなど実に楽しい。敵の忍者達の個性がアクションによって表現されているなど、原作を知らない観客にも楽しめる娯楽映画として非常に優れた作りだ。
 他にも、映画撮影の情景のディティールが実に細かい描写、大塚周夫演じる映画監督マキノのキャラクターが実にイキイキとしてて、要所を締めたりナルトを助けるなどの端役とは思えぬ活躍を見せる辺り、映画をやる!というスタッフの気概に溢れている点が素晴らしい。予定と違う事が起こって逆に喜ぶマキノ監督のバイタリティは、昔気質の映画監督、って感じで思わずニヤリとしてしまう。天才女優なのになんで泣けないのか、などの細かい描写による伏線もきっちり入れている辺り、岡村監督のストーリー・テリングの確かさが光る。

 まあ、突っ込みどころはありすぎるくらいにある。雪の国の人間に見つかりたくないんだったら女優やるなよ、とか、雪の国の国民を押さえ込んでいた忍者3人が、他国の上忍ひとりと下忍3人でつぶされてしまうんかい、とか、大小色々。ただ、それはテレビシリーズが抱える問題点である場合もあるし、目をつぶって楽しんで頂きたい。
 脚本の穴を補ってあまりある魅力を放つ娯楽作に仕上がっていると思う。このシリーズ、化けてほしいので★ひとつ追加。