虚馬アーカイブス

私「窓の外」が「江戸川番外地」というブログに書いた文章をブログに移行したものです。

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「ベルヴィル・ランデブー」(シルヴァン・ショメ) Les Triplettes de Belleville

ベルヴィル・ランデブー [DVD]

ベルヴィル・ランデブー [DVD]

  • 発売日: 2007/07/18
  • メディア: DVD

 ベルヴィル。それは、フランスから見たアメリカの夢。

 かつての夢は色あせた映像となって電波によって配信される。息子夫婦がいなくなって婆一人孫一人の寂しい家にも。そしてそんな夢は、婆さんにとってちっとも重要ではない。重要なのは寂しい思いをしている孫をどうするかだ。ピアノも犬も、孫は気に入らない。彼が心の底から喜んだのは自転車代わりの三輪車だった。
 それから幾星霜。婆さんは元気だ。生き甲斐の孫は立派に育ち、今やツール・ド・フランスに参加するのだ。その自慢の孫がレース参加中にさらわれた。さらわれた孫を追って、犬と共に婆さんは大西洋を越える。そしてたどり着き、出会う。
 かつての「夢」たちに。


 第二次世界大戦後のフランスで繰り広げられる追跡劇の主人公はちんちくりんの老婆と腹のふくれた駄犬。ヒロインはやたらとひょろっとして蛙が大好物の老婆3人。台詞は極力抑えられ、造形はじつにシュール。
 それなのに、最高に楽しい。これぞアニメーション。
 フランスから海を渡れば、アメリカ大陸があるはずなのだが、着いた場所は架空の巨大都市・ベルヴィル。どこやねん!とか突っ込まないように。そういうもんなのだから仕方がない。

 摩天楼がそびえるこの街は、かつてのアメリカ文化への憧憬。唄って奏でて踊って、クライマックスはマフィアとカーチェイス。筋自体は娯楽の王道を行きながら、世界はナンセンスに満ちている。かつてのアニメーションが持っていた『いい加減さ』を持ちながら、皮肉な目線を失わない独特な語り口も魅力的だ。手書きのアニメとCGの組み合わせも見事で、その組み合わせるときのセンスが抜群。
 そして楽曲の数々のすばらしいこと。楽曲に溢れる脳天気さと黄昏れた空気感とのリアルな交差はアメリカアニメや日本のアニメには出しようもなくなったもの悲しさを感じる。それは子供にはなかなか感じ得ない、大人の感性が充ち満ちている。

 アメリカ文化に影響を受けながら、それの模倣に依らない作家性を身につけた新たな天才がいたことに驚愕する。子供アニメでは到達し得ない新たなる天才、シルヴァン・ショメ監督の次回作に期待せずにはおられない。必見の傑作。