虚馬アーカイブス

私「窓の外」が「江戸川番外地」というブログに書いた文章をブログに移行したものです。

管理人:「窓の外」
ホームページ「江戸川番外地」で過去に書いたテキストを移行したブログです。

買ったもの:

・「おまかせ!ピース電器店」19巻(能田達規 秋田書店
・「神々の山嶺」上巻(夢枕獏 集英社文庫)


 ようやく京極夏彦の「魍魎の匣」の文庫版を読み終えた。
 読み終えるまでにかかった日数3週間・・・。長い。いくら窓の外が本を読むのが遅いっつっても長い。  ここ何週間もカバーをつけたこの文庫を会社に持ち込んでいたので、「なんでAさん、いつも辞書持ち歩いてるんですか?」とか聞かれた。・・・確かに辞書に見えないこともない。

 この長さはこの複雑な事件を語る前ふり自体もかなり長いのだが、京極堂という探偵役の「憑き物落とし」という事件解決の必然的な回りくどさから来ている、と思う。とにかく普通の探偵役より京極堂のそれはかなりめまぐるしい能力を要求される。前作「姑獲鳥の夏」を読んだ時は、それほど気にならなかったのだが、この第2作に至ってかなり京極堂の人間業とは思えぬ超人的解決を見る。こんなすげえ人間がいたら、妖怪より不思議だ(笑)。
 まずこの真実に到達するのに、かなりの想像力を要する。読者に呈示された情報だけでは当然、この真実へ到達するのは困難だが、じゃあ京極堂だけが知っている事実を積み重ねたら分かるか、というと絶対「普通の人間」には無理だ。しかも、他人からの伝聞やまた聞きなどから必要な情報を選り抜き、噛み砕き、それを自分のものにした上で、それぞれの人物の人間像をきっちり把握し、それぞれの「その時、その瞬間」の心理を京極堂はきちんと把握し、その上で再構成し全体像をそのつど修正する。そうして完成した全体像を、もいちどバラバラに分解して何度も再構成などをしたはずだ。そうでないと憑き物落としは完成しない。
 そして語りの実力も凄まじい。そもそもの憑き物落としの青写真を作った上で、情報を如何にして情報公開していくかを考え、相手の反論や合いの手を先回りして答えられる用意も怠らず、なおかつ関口や榎木津らの予定外の指摘やらネタバレのために軌道修正を繰り返しながら、アドリブやウンチクも交えて事件の全体像を語り尽くす。落語家になってたら、歴史に残ってたろう。
 こういう探偵像を生み出しただけでも、京極夏彦は確かにすごい。おそらく京極夏彦がいっぱいいっぱいの精神力で推敲に推敲を重ねた事は想像に難くないが、それを語り尽くさせる、という展開が京極堂という男を人間を超えた理性を持った探偵、ならぬ陰陽師にしている。やっぱり「不思議な事などないのだよ。」と言っている京極堂本人が一番不思議だ。